1999年 「八幡さまの大欅(けやき)」の制作(「森の詩人館」入口通路のトンネル)
御殿場高原「前島秀章美術館」(現:時の栖美術館)の第3棟「時之船の館」から、第4棟「森の詩人館」へと入る通路には、人間が歩いて通れるほどの虚(うろ)を備えた巨木のトンネルがつくられた。
~制作から完成までの道のり~
御殿場の美術館第3棟「時之船」館から第4棟「森の詩人館」へと入る通路には、
人間が歩いて通れるほどの虚(うろ)を備えた巨木のトンネルを作りたかった。
長野県中野市安源寺 小内八幡神社参道
写真提供:田中均氏
気持ちが再生して生まれ出る。巨木のトンネル、それは産道を意味している。
写真提供:田中均氏
現在元気に活きている樹木を伐採してしまう訳にはいかず、
天寿を全うした巨木に出会えることは、夢のような無理な願いであろう、と思いはじめた時、
全国銘木連合会 会長・岐阜県銘木協同組合 理事長の籏 政廣氏から吉報が届いた。
写真提供:田中均氏
長野県中野市の小内八幡神社のご神木、中野市の文化財に指定されている大欅が、
台風7号により大きな被害を受け、伐採を余儀なくされるという。
写真提供:田中均氏
この大欅を、自分に与えられた才能の限りを尽くして、再び生まれ変わらせよう。
そんな覚悟を与えてくれた偉大な大欅であった。
大欅は、数百年の昔、何度も落雷にあっているようで、
木の中心がところどころ焦げている。
大きな洞窟のような大欅の中に吸い込まれていくと、
樹齢800年とも云われる巨木の心臓は、まさに神の領域であった。
気の遠くなるような長い歳月、土の中に根を張り、水を吸い上げ、
太陽の光を浴びて育ってきた八幡さまの大欅よ
内側に「ウロ」を抱えながら、生きつづけてきた大欅よ… ぼくの戦いが始まった。
作業が進む大欅を覗いていると、菊池寛が耶馬溪 青の洞門の伝説に取材し、
仇討ちの非人間性を描いた、大正8年に発表の名作「恩讐の彼方に」の気分になる。
(株)河合銘木店(岐阜)の若いスタッフが、雪の中黙々と作業を手伝ってくれている。
彼等は、木のことを知り尽くしている木材のプロたちだ。
車いす、ベビーカーが通れるよう、下部を切る。
完成した大欅の中から、美術館第4棟を望む。
完成した大欅トンネル